二次電池
二次電池と粒子径分布測定
二次電池の性能は、使用される電池材料の品質に大きく左右されます。特に材料の粒子径分布は、電極活物質の反応性やイオン伝導性を左右する重要なパラメータです。
具体的には、電池内部の電極材料の粒子径が均一であることが、電池の放電容量や充放電効率の最適化につながります。
したがって、二次電池の原材料となる物質に求められるのは、精度の高い粒子径分布の測定です。二次電池の製造及び品質管理プロセスでは、カーボンブラックのようなナノサイズの粒子でも、適切に粒子径分布を測定できる装置が必要となります。
粒子径分布測定の対象となる物質
二次電池における粒子径分布測定の対象となる物質(電池材料)、及び測定を行う目的についてご紹介します。
正極材の粒子径分布測定
活物質
- 測定物質…コバルト酸リチウム・マンガン酸リチウム・ニッケル酸リチウム・水酸化ニッケル
- 達成性能…高容量・高出力・長寿命・安全性
導電性助剤
- 測定物質…カーボンブラック・基準粉
- 達成性能…高容量・高出力・長寿命・安全性
負極材の粒子径分布測定
活物質
- 測定物質…黒鉛・グラファイト・シリコン
- 達成性能…高容量・高出力・長寿命・安全性
導電性助剤
- 測定物質…カーボンブラック
- 達成性能…高容量・高出力・長寿命・安全性
セパレータの粒子径分布測定
コーティング剤
- 測定物質…セラミックス
- 達成性能…高容量・高出力・長寿命・安全性
固体電解質
- 測定物質…酸化物系・硫化物系
- 達成性能…高容量・高出力・長寿命・安全性
粒子径がリチウムイオン電池の性能に与える影響
粒子径と電池性能の関係
リチウムイオン電池の性能は粒子径によって大きく影響を受けます。粒子径が小さくなると、表面積が増加し、リチウムイオンの挿入・脱離の反応面積が拡大します。高い充放電容量が得られますが、同時に不可逆容量も増加することが特徴です。
一方、粒子径が大きくなると、初期不可逆容量は減少し、20μm付近で可逆容量がピークに達します。大きな粒子径は電極密度を向上させることが特徴です。エネルギー密度の向上につながります。
粒子径は充放電特性にも影響します。小粒径の場合、リチウムイオンの拡散距離が短くなるため、高レート充放電性能が向上します。しかし、過度に小さい粒子径は、電極の劣化ポイントを増加させ、寿命に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
したがって、最適な粒子径は電池の用途や要求性能によって異なり、容量、寿命、充放電特性のバランスを考慮して決定する必要があります。
研究・開発における粒子径管理の重要性
粒子径は電池の性能に直接影響を与え、適切な管理により高容量化と出力向上が可能です。例えば、黒鉛負極材では約20μmの粒子径でエネルギー蓄積性能が最適化されることが研究により分かりました。また、Li2CO3の粒子径では、14μmの場合、充放電に関与しないLi2MnO3の生成により容量が増加し高温での維持率が減少し、5~6μm以下の範囲では、粒子径が小さくなるにつれてLiの局在化が減少し、全体的な電池性能が向上しました。
粒子径は初期可逆容量、不可逆容量、サイクル性能にも影響を与えます。さらに、粒子径はタップ密度にも関係し、エネルギー密度の向上に寄与します。電池の設計思想に合わせて効率的に活物質を充填し、高性能な電池の開発を行うには、適切な粒子径管理が重要です。
リチウムイオン電池負極材料の評価・測定手法
主要な粒子径測定技術の比較
- レーザー回折散乱法(LD):レーザー回折散乱法は、粒子径分布の測定に広く使用されています。粒子にレーザー光を照射し、散乱光の強度分布から粒子径を算出する方法です。乾式・湿式両方の測定が可能で、大量のサンプルを短時間で分析できます。測定範囲は、通常0.1μm〜数mmと広範囲です。
- 動的光散乱法(DLS):動的光散乱法は、ブラウン運動する粒子からの散乱光強度のゆらぎを解析して粒子径を測定します。測定範囲は、通常1nm〜数μmです。特に100nm以下の微粒子に対して優れた精度を発揮します。ナノ粒子の測定に適しており、LTOの平均粒子径測定にも使用されます。粒子径分布を短時間で測定できるため、プロセスの効率化やリアルタイムモニタリングにも適しています。DLSは球形粒子を前提としており、非球形粒子や多分散系では正確な粒径評価が難しくなる場合があることが課題のひとつです。また、散乱光強度に依存するため、試料中のダストや凝集体が結果に大きな影響を及ぼすことがあります。
- 走査型電子顕微鏡(SEM):電子ビームを試料表面に走査し、発生する二次電子などを検出して表面形状を観察する方法です。高倍率で粒子の形状や表面状態を直接観察できます。EDX(エネルギー分散型X線分析)と組み合わせることで、元素分析も可能です。測定結果にはサンプリングや画像解析条件によるばらつきが生じる可能性があります。粒子が凝集している場合、正確な測定が難しくなるため、試料分散処理が重要です。
- その他の測定手法:結晶構造の解析に用いられ、負極材料の結晶性や相組成を評価するX線回折法/粒子の表面電荷(ゼータ電位)を測定し、分散安定性を評価する電気泳動法/原子レベルでの微細構造観察が可能な透過型電子顕微鏡(TEM)など
粒子特性評価の具体的な測定事例
レーザー回折散乱法を用いた粒子径分布測定
レーザー回折散乱法(LD)は、粒子径分布を迅速かつ広範囲に測定できる手法であり、工業材料や研究開発の分野で広く利用されています。レーザー回折散乱法を用いる際、まず試料の準備を行います。固体粒子の場合、適切な分散媒(液体または気体)を選び、粒子を均一に分散させます。この際、凝集を防ぐために超音波処理を行うことが一般的です。その後、試料濃度を調整します。濃度が高すぎると多重散乱が発生し、低すぎると信号が弱くなるため、適切な濃度(通常数ppm~100ppm程度)に設定することが重要です。
次に、分散した試料をフローセルや回分セルに導入し、レーザー光を照射します。測定は湿式または乾式で行うことが可能です。粒子による回折・散乱光の角度依存性を検出器で記録し、大きな粒子は小さい角度で強く散乱し、小さな粒子は大きい角度でも散乱光を発生させます。この散乱パターンを基にデータを収集し、ミー理論などの光学モデルを用いて粒子径分布を計算します。
測定後、散乱光の角度依存性データを解析ソフトウェアに入力し、理論的な散乱パターンと比較して粒子径分布を算出します。結果は累積分布や頻度分布として表示されます。代表的な指標として以下のものがあります。
- D₁₀:粒子径が10%以下の粒子量に対応する値
- D₅₀(中央値径):粒子群の50%がこの径以下
- D₉₀:粒子径が90%以下の粒子量に対応する値
これらの指標から粒子径分布の特徴を把握することが可能です。例えば、粒子径分布が狭い場合は均一な粒子サイズであることを示し、製品の品質管理に適していると判断できます。一方で、粒子径分布が広い場合は異なるサイズの粒子が混在している可能性があり、生産プロセス改善や原材料変更が必要になる場合があります。
レーザー回折散乱法による測定ではいくつか注意すべき点があります。まず、試料濃度の最適化が重要です。多重散乱を防ぐためには適切な濃度範囲(数ppm~100ppm程度)で調整する必要があります。また、試料分散にも注意が必要です。凝集した粒子は正確な測定結果を妨げるため、超音波処理や適切な分散媒選択によって凝集を防ぎます。
さらに、試料と媒質の屈折率差が明確である必要があります。不適切な屈折率設定は誤差につながるため注意してください。また、装置キャリブレーションも重要であり、測定前にキャリブレーションを行うことで正確性を確保できます。最後に、温度や振動など外部環境要因も測定結果に影響する可能性があるため、安定した環境下で測定することが推奨されます。
測定結果の実際の活用事例
製造プロセスの最適化事例としては、リアルタイムモニタリング技術の導入があります。例えば、近赤外線(NIR)やラマン分光計を用いて製造工程中の粒子径をリアルタイムで測定し、そのデータを基に撹拌速度や添加剤量などのプロセスパラメータを即時調整します。この方法により、粒子径の均一性が向上し、製品品質が安定化するとともに、製造効率の向上とコスト削減が実現しました。
参照元:https://www.malvernpanalytical.com/jp/assets/insitec_brochure_jp_tcm58-62944.pdf https://www.malvernpanalytical.com/jp/assets/insitec_brochure_jp_tcm58-62944.pdf
電池性能の改善事例として、リチウムイオン電池の負極において、黒鉛の粒子径を最適化することでエネルギー密度の向上と長寿命化が実現した事例があります。黒鉛粒子の粒子径を約20μmに調整することで、リチウムイオンのインターカレーション効率が最大化され、初期不可逆容量が減少し、可逆容量が向上しました。また、粒子形状を球状に近づけることでタップ密度を高め、エネルギー貯蔵性能がさらに改善されました。この最適化により、高エネルギー密度と長寿命を兼ね備えた電池製造が可能となっています。
参照元:https://www.bettersizeinstruments.com/jp/learn/knowledge-center/investigating-the-particle-size-and-shape-influences-on-anode-energy-density-of-lithium-ion-batteries/
新規負極材料の開発では、粒子径評価が性能向上に重要な役割を果たします。例えば、リチウムイオン電池の負極材料である黒鉛やシリコンでは、粒子径がリチウムイオンの拡散効率や電極体積変化に影響を与えます。粒子径を適切に制御することで、エネルギー密度の向上やサイクル寿命の改善が可能です。レーザー回折法や動的画像解析を用いて粒子径分布を評価し、最適な粒子径範囲(例:黒鉛で20μm付近)を特定することで、効率的な材料設計とプロセス最適化が実現されています。
参照元:https://www.bettersizeinstruments.com/jp/learn/knowledge-center/investigating-the-particle-size-and-shape-influences-on-anode-energy-density-of-lithium-ion-batteries/
まとめ:適切な粒子径評価がもたらすメリット
粒子径管理による電池性能向上の可能性
リチウムイオン電池の性能向上には、粒子径の適切な管理がかかせません。粒子径は、リチウムイオンの拡散効率や初期不可逆容量、可逆容量、エネルギー密度に影響することが分かっています。適切な粒子径分布は電極の充填密度や導電性にも影響を与えるのです。出力特性の向上にもつながります。粒子径を適切に管理することで、リチウムイオン電池のエネルギー密度や出力特性を向上させることが可能です。最適な粒子径は電池の用途や要求性能によって異なります。容量、寿命、充放電特性のバランスを意識しましょう。
測定手法の選定と活用のポイント
粒子径測定手法は用途に応じて選定され、性能向上に活用されます。例えば、リチウムイオン電池で使われるのはレーザー回折散乱法(LD)です。粒子径分布を評価し、正極や負極のエネルギー密度を最適化します。動的光散乱法(DLS)は、液中に分散したナノ粒子やサブミクロンサイズの粒子の粒径や粒径分布を測定。高比表面積材料の評価に活用されます。試料表面の微細構造や組成を高精度で観察できるのは走査型電子顕微鏡(SEM)です。これらの手法を組み合わせることで、製造プロセス効率や品質が向上します。
今後の技術動向と展望
リチウムイオン電池の高性能化に向けた最新研究では、全固体電池の開発や新しい測定技術が注目されています。全固体電池では硫化物系固体電解質を活用し、安全性と高容量化を両立する取り組みが行われています。リアルタイムで劣化状態を監視する技術が進展しており、インパルス応答法や交流インピーダンス法などを用いることで、劣化の初期兆候を高精度に検出可能です。安全性向上と寿命予測が実現されています。

















